FIRE実践者やFIREを目指している人々をSNSで見かけます。
庶民がFIREを目指すとすれば、それはそれは長い期間の倹約が不可欠でしょう。
中には少ない資産しかないのにも関わらずFIREの実践に移る人もいるようです。
少ない資産で驚くほど質素倹約している人もいれば、かなりの資産家にも関わらず贅沢せずに株主優待での生活を披露している人もいます。
徒然草(217段)によると、「金持ちは金を使わないから金持ちになる。」(ざっくりとした解釈です)と捉えられます。
兼好法師は「金を持っていても金を使わないのならば貧乏人と何が違うんだ」と指摘して「大欲は無欲に似たり」と結論付けています。
ことに金を使わないと言う点は、FIRE実践者が自然に身につけていることだと感じます。
かく言う私もFIREという言葉が言われるようになる以前から、資産運用による収入だけで生活を営むということに興味を持っていました。
というわけで、15年以上ドケチ生活を送っています。
そんな私が放送大学に入学して哲学を学び始めた頃にふと一つの哲学者に出会いました。
それがエピクロスです。
このエピクロスの哲学の一部はFIREやアーリーリタイアを望む人にはうってつけだと感じました。
自分のライフスタイルが肯定されたと感じたのです。
ここからは、何故、エピクロスの哲学がライフスタイルとして適していると思うのか、放送大学の「西洋哲学の起源(’16)」とバートランド・ラッセルの「西洋哲学史」の内容をもとに、私の考えを述べていきます。
①快楽主義
エピクロスは快楽主義で有名ですが、この快楽主義は酒池肉林などを重んじるわけではありません。
苦痛の不在が快楽という考え方です。
苦痛の状態にある時に人は欲望を持ちます。
エピクロスはその欲望を3つに分類しました。
1)自然で不可欠な欲望
お腹が空いている状態を考えてみましょう。
お腹が空いている状態はすなわち苦痛の状態です。この苦痛を除去するためにはお腹を満たす必要があります。
大抵の人は、このような状態の時にごく普通の食事をするでしょう。
私にとっての「ごく普通の食事」とは肉じゃがとかカレーライスにでもしておきましょう。
肉じゃがやカレーライスを食べてお腹を満たします。
これで空腹という苦痛は除去されました。私は快楽の状態にあります。
2)自然だけれど不可欠ではない欲望
やはり、お腹が空いている状態を考えてみましょう。
今度は、お腹が空いたので寿司や高級な焼き肉を食べます。
ついでに純米大吟醸を楽しんで、デザートも食べます。とっても幸せな食事ですね。
ですが、空腹を満たすのにここまでの贅沢は不可欠ではありません。
エピクロスによると、この場合は快楽の多様化というそうです。
また、この食事が普通になったとすると、豪華な食事を取れない状態が苦痛になる上に、普通の食事でも満足できなくなるでしょう。
3)自然でも不可欠でもない欲望
自然でも不可欠でもない欲望とは何なのでしょうか。
放送大学のテキスト、荻野弘之、桑原直己「西洋哲学の起源」(放送大学教育振興会 2016)を引用すると『像を建立してもらう、冠を戴く』とあります。
身近な例だと何になるのでしょうか。私の感覚だとSNSで「いいね」をもらうために躍起になることでしょうか。
私も含めて大抵の人には承認欲求があるので、他人から評価されてスゴいと言われたいものです。そのために高級ブランドを身につけたり、海外のどこかで後ろ姿の写真を撮ったり、頑張って難関資格の合格を目指すかもしれません。
でも、よくよく考えれば、SNSでの評価なんてごく普通の生活に必要なのでしょうか。
快楽主義から見ると、FIREを目指す人は「自然で不可欠な欲望」を満たすことにだけ注意すればよさそうです。
なんせ、資産形成にはかなり長い時間が必要です。それ以外の欲望を満たそうとすると、より多くのお金と時間がかかるでしょう。
ただし、倹約しすぎて病気になるようなことは避けたいです。
以前、倹約を励むばかりに食事を粗末したことで体調を崩したことがあります。
この場合、健康の不足(苦痛)に陥ったことになったと解釈しました。
この苦痛を除去するために1週間ほど横になる羽目になりました。
余談ですがショーペンハウアーによると、幸せでいるためには陽気でいる必要あり、陽気でいるためには健康でなくてはならないとされています。
幸せでいるためにFIREを目指したとしても、健康を害してまで資産形成に励むということは、ショーペンハウアーからすると矛盾した行動とも取れるかもしれません。
少なくとも、私はケチって体調を崩した経験から、このように解釈しています。
何事も極端にならないように気を付けています。
食事であれば、贅沢をしないで十分な栄養を摂り、
お腹が空いた状態(苦痛)→食事を摂る(苦痛の除去)→お腹が空いていない状態(快楽)
という、快楽の状態にあることが大事だと思います。
②隠れて生きよ
エピクロスは人目に付かないよう静かに暮らすことを勧めています。
その理由は、他人からの嫉妬や攻撃から逃れるためです。また、危害を加えられるようなことはなくても、そのような人々に囲まれていては安心できないからです。
FIRE実践者は大抵の人よりも資産を持っていると思います。
そのため、間違いなく他人からの嫉妬の目に晒されるでしょう。
人は自分よりも余裕のある生活をしてると思われる人のことをよく思わないでしょう。
たとえ、贅沢しないでコツコツ築き上げた資産だろうが、その結果に対してだけにしか目が行かないものだろうと思います。
ひどい連中になると、その結果を巻き上げようと近づいてくるかもしれません。
そのため、目立たずに隠れて生きる必要があるのです。
私も「隠れて生きよ」をモットーに隠棲するつもりです。というか、もともと存在感がなく目立たない生活を送っています。
まとめ
FIREを目指している人や既に実践している人にとってもエピクロスの哲学は参考になると思います。
どんな金融商品がいいかということについては分かりませんが、ヘレニズム~ローマ時代に人気があったエピクロスの哲学は現代の私たちにとっても有用なライフスタイルの参考になると思います。
自然で不可欠な欲望のみを満たし、隠れて生きることで、魂の平静(アタラクシア)を得ることができます。
そもそも、FIREは煩わしさを逃れて魂の平静(アタラクシア)を得るために行うものだと思います。
特に、エピクロスの欲望や快楽に対する捉え方が、資産形成への心構えと相性が良いのではないかと思います。
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